6)ガラスモールド成型装置の開発 Jun 21 ’26
非球面レンズを高精度(レンズとして使用可能なレベル)に熱加工するには、ガラスをできるだけ低温でそして高圧で成型することが必要です(この成型工法を一般的にガラスモールドと言います)
溶融ガラスをレンズブランクに加工するプロセス開発を手掛けていた自分にとって、低温で成型する技術自体あまり難度の高いテーマではなかったのですが、その後の市場競争の結果を省みると上には上がいると痛感した次第です
最初に開発した装置は熱伝導の良い材料を加熱ブロックに使用して、その加熱ブロックの内部に窒素ガスを通しプロセスタイムを短縮した装置でした
その装置で生産する非球面レンズは、当初性能と生産コストの点で優れていてある程度の競争力がありましたが、時間の経過とともにその優位性は剥落していきます
次に開発した装置は上述のバッチ式の成型ステージを2段にして「加熱・成型ステージ」「冷却ステージ」に工程分割したものでした
この装置は初代のバッチ式に比べると加熱部の加冷却を必要とせず、プロセス時間の短縮が可能でした
その後3ステージ→5ステージと工程分割数を増やし、ロット数に応じた使い分けしていました
他社はステージサイズを小さくして、工程分割数をさらに多くしたタイプ、あるいはバッチ式で加熱源に赤外線ランプを用い成型室内部を真空にできるタイプなどを進化させています
工程分割数を多くしたタイプはステージ温度を細かく設定できることで、生産性が高いです
例えば、我々が開発した3ステージの場合「加熱」「成型」「冷却」の3工程ですが、どこかの工程に時間が掛かるとその工程がボトルネックになりトータルの成型時間が長くなります
この点、工程分割数が多い装置の場合、ボトルネックになる工程を複数ステージに分散することが可能で、一連の成型時間が短縮できます
ガラスモールの場合、金型と成型品の隙間にエアー溜まりが発生しないように予備成型体の形状をコントロールする必要があります
ただ、複雑なレンズ形状の場合には予備成型体自体も複雑になり、どうしても真空雰囲気での成型が必要になります
このタイプの成型装置を開発・販売しているのが日本を代表する工作機械メーカ、T*社です
何れにせよ、工程分割型の成型装置でNO.1を確保したのは大阪のS**社、バッチ式ではT*社です
個人的にニッチトップを目指す心意気でしたが、結果的には敗北でした
つくづくその理由を省みることがあるのですが、何れの会社も大阪のP社の開発依頼を受けて開発を手掛けたメーカで、当時P社は車のナビゲーションシステムやビデオカメラ、デジカメなどのコンシューマ製品で世界NO,1で、我々の目標と格段にレベルが違ったことです
※ 企業経営に関し思うのは、企業経営を山登りに例えると、どの山を登るのか? そしてそのルートは? そのための準備(装備や体力)は? みたいなところに行きつくかもしれません
5)非球面レンズ成型技術の特許バトル Dec.16’25
非球面レンズの(熱加工)成型に関する特許はUSのC社とK社が保有していて、日本国内のメーカは後発でした
USのC社とK社は国際特許としてJPへ特許申請し、これに対しほぼの国内の光学メーカは異議申し立てを行いました
その論点はガラスを軟化温度に加熱して形状精高い光学素子を得る方法に関してです
前職の会社では非球面レンズを成型し易くする低温度成型用の硝材開発を担っていて、その売り上げ比率も高かったのでUSメーカの特許は、ある意味死活問題でした
来る日も来る日も虎ノ門の特許庁へ足を運び、親指と人斜視指にページ捲り用のサックを嵌め、異議申し立てのための資料を検索した次第でした
結果的に、USメーカの国内での特許成立は阻止できたのですが、その第一の理由は国内の多くのメーカが「協同で一致して」この対策に取り組んだことです
なぜ国内の競合するメーカが「共同で一致して」対策に取り組んだのかは理由があったように思えます
その数年前、オートフォーカスカメラで当時世界一の国内メーカM社がUSのW社からオートフォーカス技術の特許提訴を受けました
当時の金額で200億円ほどの賠償支払いを命じられ、結果のところ破綻しました
M社はUS W社のオートフォーカス製品は性能が低くそのため自社開発した製品を市場投入したのですが、その製品がIPに抵触すると言う理由です
カメラ大手2社も同様の結果でした
もしM社、N社、C社が「共同で一丸で」この問題に取り組んだらどのような結果になったでしょう?
多分、本国の光学ビジネスはもっと発展していたかもしれません
~~今年もご愛読ありがとうございました!~~(今月の四方山話、月初めには必ずUPしようと努力していましたが少々遅刻です)
年末なので少々独り言ですが、
当社のビジネスの目的は、
1)光学業界の発展に寄与すること
2)地元の発展に寄与すること
3)継続するためのFinance
1)項に関し、お問い合わせ頂いた件は、ぼほ無償で「仮設計」みたいなところまで対応していて、この点 多少お役に立てているかなと思っています
(実のところソフトのサブスク費が多大で今後とも継続できるか疑問ですが、今のところ頑張ってます)
2)項の「地元の発展」に関し、今年楽天市場へ「会津のよさ」と言うショップをオープンしました
志は高いのですが、楽天市場の経費は月当たり27,500円ほどでそれに加え3~6%の手数料がかり費用対効果の閾値がかなり高いです
今になってECビジネスの厳しさを痛感してます
3)項のFinanceに関し、まぁこの点はご心配頂く無くても大丈夫
上述のような状況で来年も引き続き頑張れればと思いつつ、頑張りますのでよろしくお願いいたします
~~来年もよろしくお願いいたします~~
4)非球面レンズとの出会い Nov.09’25
1980年初頭にUSのコダック社が販売したディスクカメラをご存じでしょうか?
このカメラは円盤状にフィルムを配置したカメラです
このカメラにガラス非球面レンズが搭載されています・・・コンシューマ製品として世界初
非球面レンズの歴史は古く、13世紀には眼鏡用として研削研磨によりガラス製非球面レンズが製造され、その後射出成型により熱可塑性樹脂の非球面レンズ、球面のガラスレンズの表面を熱可塑性・紫外硬貨型樹脂の薄い樹脂で覆ったハイブリッド型の非球面レンズが用いられたりと・・・
研削研磨による非球面レンズは量産性と精度に問題があって、樹脂を用いたレンズは温度特性に課題があり、上記のコダック社の量産型のガラス非球面レンズの出現は光学業界において大きなインパクトでした・・・当時の日本の光学業界は世界の中心
コダック社の非球面レンズはガラスモールド技術により製造されており、高温度のガラスを非球面レンズに成型するとは!との大きな驚きでした
それを契機にH社(PhotoMask,・LifeCareのトップ企業)、C社(カメラのトップ企業)など多くの企業がガラスモールド非球面レンズの開発に着手しました
前職では当時家電トップのP社と材料開発(低温で成型できるガラス材料)を、現在チェキやラージフォーマットカメラGFXでデジカメ業界をリードするF社と成型装置の開発を行っています
今になって思うのですが非球面レンズの成型技術の開発において、F社の当時のS部長の話は大きな影響がありました
「渡部さん、ガラス非球面レンズはとてもスジが良い製品で、これから何十年も続く技術なのだから一生懸命頑張りなさい」
それはほんの一時の会話でしたが、その後の自分にとても大きな意義がありました
3)光学設計ソフトとの関わり Oct.05 ’25
半世紀ほど前は日本を代表する光学メーカは自社で光学設計ソフトを開発し、使用していました(我々のような機動力の無いところは1)項で紹介したOptasが主流)
そうこうしている間に、精度が高く高速で動作するCODEVが出現し、次第に大手光学メーカもCODEVを採用する流れになってきました
前職ではBlueRayなど高NAのレンズ開発が多く、CODEV以外のソフトでは解が収束し辛かったこともあって、また極めつけはUSのドットコムバブルの影響で通信光学系の開発が多く、斜めカットのSMF(シングルモードファイバー)への入射効率を適切に求める必要があり、この点でもCODEVが優れていました
このような経緯で、前職ではCODEVを光学設計用途として長年使用してきました
また光ファイバー関連(照明光学系)の作業も多く、照明解析ソフトと言えばLight Toolsですが、少々維持費が高く解析時間より経費優先みたいなところでZemaxの照明解析機能を使用していました
当時の比較として、解析の精度はLight ToolsとZemaxのではあまり変わりませんでした(条件によるところも大きいと思いますが)
光学設計上、最後に残る「最大課題」はどのようでしょうか?
個人的には非球面レンズを多用する光学系がメインでしたので、色消しが最大の課題でした
色消しは波長に対するコンストレインツの重み付けの最適化にもよるのですが、ソフト自体の特徴も顕著です
個人的に、カメラレンズなどの設計(硝材選定)ではOpTaliXを多用してきました(理由については後ほどUPしたいと思います)
~~以上、個人的なところの「光学設計ソフトとの関わり」です~~
以下、光学設計ソフトに関わる四方山話として、
① 東海大学で教鞭を取られたK教授、光学系の最適化理論の大御所です(書籍_光学の原理、レンズ光学:理論と実用プログラム)
JOEMのセミナーではたびたびお世話になり、最前列で先生のセミナーを拝聴させていただきました
先生曰く、日本の光学設計技術が海外勢に負けたらアカン、みたいな感じで、凄く心意気を感じた次第です
先生の開発なさっていた光学設計ソフトはToles、収差をコンストレインツにするタイプのものです
当時、光学設計の右も左も分からない自分にとって、とても参考になった光学設計ソフトです
② 当時、セルフォーンと言えばApple, Samsung
Samsungの光学系の開発を手掛けていたのが韓国D社のK先生
前職ではK先生が運営される会社から色々とお仕事を頂いていて、雑談程度に伺うと、K先生が来日される目的の一つはK社の社長さんと光学設計ソフトのお話しされることでした
K先生の話だとその会社は板橋にあって、独自に光学設計ソフトを開発なさっていたようでした
なるほど、光学設計ソフトもいろいろな特徴があり、目的に応じ色々な必要性があるのだなーと感じた次第です
③ 光学メーカベスト5と言えばドイツのS社、L社、国内のC社、N社、F社でしょうか?
ドイツのL社から設計込みの開発依頼を受けたことがあります
L社とのやり取りはCODEVデータでのやり取りでした
L社はCODEVのマクロ機能を使用して、様々な評価ソフトを開発し使用していました
もちろんそのL社は自社開発の光学設計ソフトを所有し、ただ対外的なところではCODEVを使用しています
※ 今月もサボらずUPできて嬉しいですが、ただ光学関連以外の作業が多く技術資料の作成も滞りがちです
多くの方にこの「四方山話」を閲覧頂いているのですが、多少とも光学業界の発展のために・・・頑張れたら、嬉しいと思います
2)大御所との出会い Sep.06 ’25
(前置きが長いのですが)
日本の医療機器の貿易赤字額をご存じでしょうか? 2025年度はおそらく年2兆円を超える額だと思います
CT、MRI、手術用ロボットやペースメーカ、人工関節など多くの機器・治療器具を輸入に依存しています
最近は低侵襲な術式が主流で、特に軟性内視鏡による診断や治療、腹腔鏡手術、ロボットによる悪性箇所の切除等々が多く使用されています
国内メーカO社が提供する軟性内視鏡は世界市場の7割程度と他国メーカを圧倒していますが、腹腔鏡手術に使用する硬性鏡はドイツのK社、USのS社が高シェアーを持っています(記憶違いかもしれませんが、軟性鏡と硬性鏡の市場規模は1桁程度の差があります)
硬性鏡(膀胱鏡)を国内で初めて輸入販売を手掛けたメーカがT社で、その後T社は国産化に成功しています
その製品開発を手掛けたのが光学業界第一人者のN氏(著書_レンズ設計工学・・・)でした
医療機器の光学系の開発が長かったこともあってか、T社からN氏の設計した硬性鏡の改良依頼を受けたことがあります
N氏の設計を光学ソフトに落とし込んで鑑みたところ、斬新なそして緻密な一面とそれと組立時の誤差解析において非常にバランスが取れた設計で、現在のように光学設計ツールの発達していない時代になぜこのような設計ができたのか、と感心しきりでした
先月記載しましたC社M氏の「光学設計には自由度があって、その自由度の範囲での最大限のパフォーマンスとは?」みたいな問いに対し、最近は光学設計ソフトに依存する部分が多くオペレーションスピード、結果の記憶と性能トレンドの把握などが光学設計スキルのランク付けみたいなところがありますが、もう一つ光学的な理論みたいなところも必要と思った次第でした
1)光学設計との関わり Aug. 07 ’25
現在では年3兆円ほどを売り上げるメーカさんの光学設計部長だったD氏から、近軸光線追跡や像品質の評価などをご教授頂いたのが光学設計との関わりです
近軸理論などの話は退屈だったのですが、四方山話を伺うのが楽しみでした
当時はNECのPC98などのパソコンが身近でしたが、それ以前のツールは対数表と電卓が計算の手段みたいな・・・
そして、その計算を担当する部署内に多くの女性がいらっしゃったようで、結婚できない光学設計者はいなかった・・・らしいです
D氏の上司の方、K氏は著書光学入門を出版されていてPC用のOptasと言う光学設計ソフトを開発された方です
D氏お勧めの著書はその光学入門とC社M氏のレンズ設計法でしたが、今でもバイブルとして愛用してます
(C社M氏のレンズ設計法ですが「光学設計には自由度があって、その自由度の範囲での最大限のパフォーマンスとは?」みたいな問があって、なるほどと思いつつも難しすぎ(もう少しかみ砕いて頂くと、と当時も今も思っています)
0)「四方山話」を掲載します July 08 ’25
光学製品の開発は多元的で、取り合えず試してみて、得られた事象を検証してと言ったプロセスの繰り返しです
このような経験の積み重ねが技術力の向上に繋がるのですが、結構と時間と労力が必要です
個人的に長い間、多種多様な光学製品の開発に携わってきました
納期や予算の兼ね合いで一発勝負的な開発スタイルでしたが、失敗談もかなり
リスクを取らなければ前に進めないし、課題が発生してお客様にご迷惑を掛けることは最低限避けたい、と言ったところで光学製品の開発は大変です
個人的な経験談が皆様のお役に立つか分かりませんが、
光学製品の開発をされている方のリスクの低減や一コマのBreak timeになればと思い「四方山話」を掲載します
月毎に更新できればと思っています
